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2014年09月17日

第111回「どてやき下條(甲府)/どてやき」

夏の終わりの小旅行 in 甲府 〜前編〜

毎年8月は仕事が忙しく、9月に夏休みの代休を取ることがここ何年かの通例となっています。
うだるような暑さが一段落した過ごしやすい空気の中、夏休みの子供もいなくなった平日の昼間にあちこち出かけられるというのは、非常に快適で、逆にありがたいくらいです。

さて今年はどこに行こう?
景気もそんなに良くないので関東周辺で、気軽に一泊旅行ができ、それでいてまだ行ったことのない都市はないかな〜?
などと考え、思いついたのが山梨県の「甲府」!

最近TVなんかで南アルプスの特集を何度か目にし、「あれ?南アルプスって意外と近いんだな」なんて興味を持っていたところで地図とにらめっこしていたら、南アルプス市と甲府の市街地も驚くほど近いんですよね。
「あ、この辺いいな〜」なんて軽いノリで、今年の夏休みは甲府〜南アルプスを車でうろつく、というプランに決定しました。

ちなみに、何故このあたりの情報を頻繁に目にしたかというと、これはもう完全に朝の連続テレビ小説「花子とアン」の舞台だからでしょうね。
「花子とアン」、僕も一応見ているんですが、前半はドハマりしたものの、後半のスピーディな展開に置いてけぼりをくらい、最近は見たり見なかったりといった中途半端な状態でした。
なのでメディアの操作にまんまと乗せらた形になってしまったことが多少悔しくもありつつ、でもせっかくだし近くに寄るようなことがあればロケ地でも冷やかしてやれ!なんて微妙な距離感でもって、山梨県へ出発しました。


東京から甲府は高速を使えば驚くほど近く、道が空いてれば2時間もかからないでしょう。
行きはケチって下道で行ったんですが、それでものんびり寄り道しながらのドライブって感じで、4時間くらいで到着。

宿に車を停め、見下ろす景色にいよいよ実感が湧きます。




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甲府、盆地感丸出しw



で、一泊二日の全行程のうち、ま〜半分は普通の観光です。

時系列は前後しますが、




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「源さん」って店で肉うどんを食べたり



これ、ジャンルは“吉田うどん”になりまして、元々は富士吉田のあたりにたくさんある地元に密着したうどん文化の流れ。
僕は吉田うどんのお店を巡るのも好きなんですが、そんなに遠くないってことで甲府にもいくつか食べられるところがありました。




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まんまと花子とアンのロケ地を見学したり



はなと朝市が子供時代に忍び込んだ“本の部屋”のある協会として使われた建物ですね。
内装は全然別物ですが。




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清流で涼を取ったり



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サントリーの白州蒸留所へ寄ってみたり



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そこのミュージアムでその気になったり



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お目当てだった「べるが」って公園が休園日だったり



と、割とあちこちまわって爽やかな晩夏の山梨を堪能してきましたとさ。


さて!ここからが酒場のターンです!

今回僕が宿を取ったのは、甲府駅からは徒歩だと10〜15分ほど離れる「中央」というあたりで、どちらかというと旧市街に位置付けされるエリア。
宿にチェックインして一段落し、まずすることといえば、周辺の散策です。
もうね、どんな都市、街にだって、これが一番の楽しみで来てるようなもんだから!

で、これがもう最高だったんですよ!




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おお!いい昭和感!



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うわ、最高の路地!



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喜多八?板橋の名店との関係は?



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ここ住みたい!



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見て!すごいよ!みんな見て!



どうですこの歴史を刻んだ風景たちの重み。

特に上の「お座敷サロン桃太郎」が写ってる写真、それらたまらない看板群も見所なんですが、もうひとつ注目してほしいのがその左下。
ここ、2〜3階あたりなんですが、建物と建物の隙間にトタンで壁と屋根が作ってあるでしょう。
このサイバーパンク感!九龍城感!
見てるだけでドーパミンとアドレナリンとエンドルフィンとセロトニンがα波に乗って大放出されるような、たまらない嬉しさです。
甲府中央の一帯は、ほとんどがこのような屋根の張り巡らされたアーケード街になっていて、それが独特の雰囲気をかもし出しているんですよね。

あ〜、楽しいな〜!

ただし!甲府の懐はまだまだ深い!こんなもんじゃない!

アーケード街の中にある大きな建物の1階は、ほとんどが示し合わせたように通り抜けのできるスナック街になっているんです。
これがすごい!
もうね、歩いててふと横を見ると、常にこんな景色。




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もちろんこれはほんの一部ですよ。

こんなスナック街が無数に広がっているんだから、酒場好きはもちろん、昭和レトロ好きや、珍建築好きまで、幅広い方々に魅力のある街といえるでしょう。

あまりに魅力的なんで、今回はそれらビル内スナック街のうちの2つほど、実際に歩いてみた様子を動画にまでまとめてしまいました。
好きな人にはたまらない映像になってると思うんで、良かったら見てみてください。





右向き三角1 甲府市中央のスナック街(ニュー銀座街〜オリンピック通り) - YouTube



ね?ヤバいでしょ?


はい、ここからがいよいよ本題というか、今回のお店紹介になります。
いつにも増して前置きが長いですね。
すいません。

ご紹介するのは上記のアーケード街を抜けきり、一本道路を挟んだ向かい側にある「どてやき下條」さんになります。




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こんなお店



ネットなんかでも情報の多い、甲府の有名店です。
現在の大将は三代目ということで歴史は長いお店ですが、近年建て替えられた建物が大変きれい。

営業時間は掟破りの15:00〜20:00!早い!
なんでも初代の大将が、悪い酔っ払いが嫌いだった名残りらしいんですが、人気店であり、名物のどてやきの数も限られているので、むしろちょうどいいバランスなのかもしれません。

僕はオープンの15時ちょっと過ぎにお邪魔しました。

店内に入ると愛想の良い大将が親切に「ここでいい?」なんて言ってくれ、特等席ともいえる大将の作業場の目の前のカウンターに案内してもらいました。
奥の座敷ではすでに一組、常連さんらしき団体が宴会を初めておられましたが(何時からやってたんだ?)、我々は夫婦二人、どう見ても一見の観光客に見えたんでしょうね。
大将は最初から最後まで色々と親切に教えてくれました。

すぐにお通しの




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梅干し



が目の前に。
「自家製だからうまいよ!」
なんて解説が入りますが、なるほど、ほどよい酸味と昆布のアクセントが爽やかで、箸休めにもぴったりそうな一品。

続けて名物の




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どてやき(3本 240円)



も、一人前三本がそれぞれの目の前に!
まだ注文はしてなかったんですが、こちらでは着席と同時にお通しとどてやき一人前が提供されるのがお決まりのようです。

慌ててビールの大瓶(700円)を注文し、冷めないうちにかじりつくと……、う、うますぎる!

串に刺された牛もつを味噌ベースで煮込んだものなんですが、入店時から店内に漂っていた若干の獣臭は口に入れた時には全く感じず、強い旨味とふわっふわの食感が夢心地!
あまりのうまさに、ゆっくり食べる余裕もなく、立て続けに三本、一気にたいらげてしまったくらいです。

このどてやき、店内の入り口目の前に、




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大鍋



に入って煮込まれています。

お店は隅々まで清潔なんですが、さらに驚いたのが実はこの鍋の美しさでして、まるで新品!
これがすっぽりと収まるようにしつらえられたステンレスのカウンター台も合わせて、毎日使い終わったらきちんと磨き上げないとこのうっとりする光沢は出ないですよ。
大将がさらっとおっしゃる「どてやきは午前中から仕込んでるからねー」なんて言葉と合わせて、もうなんか、感動すら覚えてしまいました。

で、この鍋の一隅に味噌が固めて配置され、どてやきの串が何本か出ると大将が出し汁を足し、それから味噌をちょっとだけ溶かして味を整えます。
この作業、何度見ても飽きなかったですね〜。


どてやき以外はこんな感じ。




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制覇したい



よく見るといくつかのメニューに(半分)という項目があるのがまた最高なんですよね。
色々と食べてみたいんでこの(半分)をうまく使いつつ、




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せんまい 半分(350円)



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なんこつ(400円)



を注文。

せんまい、見た目が怖いので僕は普段進んでは頼まないんですが、こちらでは定番のようなので、思い切ってみて良かったです。
爽やかな酸味のあるタレが、よくある酢味噌味とはまた違う新感覚の美味しさを醸し出しています。

すると大将、「うまいでしょ?それは元々俺と親父の晩酌のつまみなんだ。親父が酢味噌をあんまり好きじゃなかったから、俺が独自に調合してね。ここに載ってるのが開店当時のメニューで、それ以外はみんなうちの晩酌のつまみから生まれたんだよ」と。

“ここ”ってのは壁のごくごく隅の方に掲げてあった、




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この旧メニュー表



これが開店当時のお品書きですか。
必要最小限でありながら心躍る、素晴らしい内容ですね。

そしてそれ意外のメニューたちは、大将が晩酌用に開発したものを常連さんたちが食べたがった結果、定番化したもの。
そりゃー全部うまいに決まってます。

また、なんこつも素晴らしい!
これは豚のナンコツなんですが、骨の周りに肉がたっぷりとついており、あらかじめ蒸すか茹でるかしてあるのか、ホロホロと柔らかく仕上がっていて、周りには焦げ目が付いて香ばしい。
もちろんナンコツ部分はコリコリと小気味よい食感で、そのハーモニーの心地良いことといったらないです!

二杯目は




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チューハイ(450円)



を。

ちなみにこの日、妻はソフトドリンクであるウーロン茶(250円)を一杯目に頼んでいたんですが、少しすると大将「はい、これ置いとくねー」と、これまた汚れひとつないステンレス製のお盆に、




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たっぷりのお冷や



を置いてくれました。

これ、お酒を飲まない人は、水でいいなら飲んでね、という親切心からくるサービスですよね?
そんな店あります?
これを出さなければ次もその次もお茶かなんか頼むのに!
結果、我々はこちらに惚れ込んでしまい、また交通費をかけてでもやって来ようという気になっているので、つまり素晴らしいお店というのはそういうものなんでしょう。

まだまだいきましょう。
以上のような素晴らしいおつまみと美味しいお酒を楽しんでいると、大将と常連さんの会話が耳に入ってきました。

大将「今日はねぎまあるよ!」
客「じゃあちょうだい」
大将「早く来て良かったね〜!最近は用意できても1日2、30本だから」

これは嫌らしいと思いつつ、聞き耳を立てざるを得ないです。
しばらく様子を伺っていると、常連さんの元に一見なんの変哲もない串焼きが届き、うまそうに食べておられます。

う〜ん、がまんできない!
「すいません、ねぎまっていうのは頼めるんでしょうか?」と伺うと、「いいよ〜」とのことで、




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ねぎま(値段不明)



来ました!
いわく「いわゆるシロモツっていうとこだよ。ネギも甘いからうまいと思うよ。入荷が少ないからメニューには出せないんだよね」とのこと。
初訪問で裏メニューとは畏れ多くもついてました。

これまたひとかじりすると…




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……もう降参



うますぎる。

サクッとした歯触りに心地良い弾力。
噛めば噛むほどにじみ出す旨味。
そして本っっっ当〜〜〜に甘いネギのアクセント。
さらに特筆すべきは、絶妙にもほどがある塩加減!
名人を超えた国宝級の焼き加減と言えましょう。

これまでの大衆酒場人生でも何度か脳天をぶち抜かれるような美味に出会ったことがありますが、それを凌駕するレベルです。
旅情を鑑みてもうますぎる!!!

なんつ〜かもう、だんだん言葉もなくなってきました。

ここらでこれをいくのが正しい選択肢ってやつでしょう。




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ぶどうワリ(450円)



これ、いわゆる東京下町の居酒屋で出される、キンミヤ+ぶどうエキスの“ぶどう割り”とは違います。
なんと、白ワインの焼酎割り!
さすがワインの里!

度数は高いんだけどあまりにもスッキリサッパリとしたこの“ぶどうワリ”と、絶品の“ねぎま”、はっきり言って至福すぎます!

あ〜、甲府に来て本当に良かったし、また絶対来る!

ここらで胃袋の方はほぼ満足なんですが、まだどてやき下條の空気感と美味を味わいたいという気持ちも全然あるんですよね。
名物のどてやきももう一度頼みたいんだけど、他の料理も気になる。
今回は初訪問ということで、悩んだあげく他のメニューに手を出してみることにしました。




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レバー塩焼 半分(450円)



半生とかじゃなくきっちりと中まで火が通ってるんだけど、柔らかくあっさりとして嫌味の無い味!
うまいな〜。




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キャベツ炒め 半分(250円)



屋台の焼きそば的なパンチのある味付けでめちゃくちゃ酒が進む!
具材はキャベツだけなのに!

ここまで来て、やはりどてやきはもう入らなくなってしまいました。
自分の胃袋の貧弱さが恨めしい。
まぁ仕方ないので、またあのどてやきを味わうことを目標にもうちょっとがんばって生きてみることにしましょう。

ただし!あれだけは味わっておかないことにはおさまりがつきません!

あれとは、




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これ!



そう、この写真中央に鎮座する、




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どて玉子(200円)



これまたたっぷりと時間をかけて煮込まれ、牛モツの旨味を嫌というほど吸いまくってしまった玉子です。
も〜うまいのうまくないのって、うまいに決まってるんですけどね!

あ〜幸せ。


ちなみに開店当初からのメニューにあった「ボルス」という酒、途中で大将に「これはなんですか?」と伺うと、「疲れた時に飲む栄養ドリンクっていうか、玉子酒みたいなもんだね。度数は低いし、これを途中で飲む人はあんまりいないかな」ということで、でもどんなものか気になるので、最後のシメに頼んでみました。




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ボルス(400円)



はっきり言ってなんだかよくわからず、確かに飲んだことはないけど、玉子酒ってこんなものなのかな〜?っていうような、全く甘味のないプリンを液体にして飲んでいるような、不思議な飲み物でしたね。
これ、このお店以外にはあるのかな?
良い経験になりました。


というわけで、甲府の名店「どてやき下條」、本当にわざわざ足を伸ばしただけある超〜〜〜名店でした!
絶対にまた行きたい!

次回後編は、いよいよ夜の街にダイブし、よりディープな甲府を堪能していきます〜。




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どてやき下條のお手拭き(新聞紙)、ライターは、天井つり下げスタイル





住所:山梨県甲府市中央4-2-15
電話:055-232-3044
アクセス:JR身延線金手駅
どてやき - 金手/居酒屋 [食べログ]




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会場:ミニコミ・CD シカク(大阪市北区中津)

※開催時間はシカクさんの営業時間に準じます
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会場:ミニコミ・CD シカク 2Fイベントスペース
会費:1,500円
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※詳細は随時パリッコのホームページでお知らせします
羅刹レコーズ/パリッコ



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posted by パリッコ at 20:20 | Comment(2) | 第101回〜第125回
この記事へのコメント
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Posted by whistkharm at 2021年12月19日 19:42
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Posted by georgenric at 2021年12月19日 20:45