大衆酒場ベスト1000

2014年10月01日

第112回「くさ笛(甲府)/きのこおろし」

夏の終わりの小旅行 in 甲府 〜後編〜

今回は、前回からの続きです。
よろしければこちら、

第111回「どてやき下條(甲府)/どてやき」: パリッコの「大衆酒場ベスト1000」

をご覧になってからお読み頂くと、流れがわかりやすいかもしれません。


さて、15時のオープンに合わせて一軒目の「どてやき下條」さんにお邪魔し、すでに満腹になった僕たちは、いったん宿に戻って一休み。
酔いも胃もこなれたところで再び街に繰り出すことにします。

時刻は18:30、外に出てみるとあたりはすでに真っ暗。
いよいよ昼間よりもディープさを増した、甲府中央の夜の飲み屋街にダイブしていきたいと思います〜。

ちなみに前回、街の雰囲気を伝えるために、





こんな動画



をアップしましたが、今回紹介するお店も、この中に映っている一軒になります。




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それぞれの店に灯りがともり



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ぐっと色気を増す



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甲府中央の繁華街



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アーケードの中にはこんな簡易ビアガーデンも出現



もちろんスナック街にもネオンが。




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昭和にタイムスリップしたとか、映画のセットに迷い込んだとかって表現がありますが、まさにそれ。
歩いているだけでもうたまりません。

ただこのあたり、別に観光地というわけではないので、我々は普段ここで暮らしている地元の方からすると明らかに異質な存在。
遠慮がちに隅の方を歩きつつ、心の中のテンションメーターは振り切れている、という状態です。

そんな風に徘徊していると、一軒のお店が目に止まりました。




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あの緑の看板



なんとなく気になるな。




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銘酒コーナー「くさ笛



か。

銘酒コーナー”というフレーズにもぐっとくるし、また「くさ笛」という店名に趣があっていいですね。
どうやらこの「オリンピック通り」というスナック街を奥に入っていったところにあるようです。

様子を見にいってみると、開け放たれた引き戸に縄のれんが下がり、お店の中の様子がなんとなく伝わってきます。
周りの他のお店のような入りにくさがなく、常連さんと店員さんのワイワイとした楽しそうな声が漏れ聞こえ、明らかにここだけ“陽”のオーラを感じます。

ちらりと見えた店内の壁にも、きちんとメニューと値段が表記してあり、そういった意味でも安全そう。

勝手口のこのドアの、




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壁のラインに合わせた絶妙な加工



も可愛らしいではないですか。

僕の「ここに入らなかったらきっと後悔するな…」という表情は一瞬で妻も理解してくれ、甲府の夜はこちら「くさ笛」さんに身を預けてみることになりました。


さっそく遠慮がちに縄のれんをめくると、すぐに女性の店員さんが「こちらにどうぞ〜」と案内してくれます。

店内はカウンターのみで10席ほどの小さなお店。
先程の女性店員さんと、人柄の良さがにじみ出た女将さんのお二人で営業されているようです。

先客は5〜6名、みな常連さんのようで、女将さんや店員さんと楽しげに会話されています。




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はは、どう考えたって最高の店だ



まずは角ハイボール(500円)をお願いし、グイッと飲んでソワソワした気持ちを落ち着けましょう。

お通しは冬瓜の煮物
これがなんとも優しい味で、緊張で若干張りつめていた心と身体がゆっくりとほぐれていくようです。

この、見知らぬ酒場でだんだんと自分の気持ちがお店に馴染んでいく過程、一見で飛び込んだ店ならではの楽しみでもあるんですよね。

案内して頂いたのは幸運にも、特等席ともいえるカウンターのど真ん中。
女将さんが親切に「甲府は初めて?」「どこから来たの?」なんて話しかけて下さり、隣の席の物静かな男性の常連さんともゆっくりと打ち解けることができました。

それから、おつまみを何か頂こうと、目の前の棚に貼られたメニューに目をやると、ここで衝撃の事実に気付いてしまったんですよね。




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これまたいい眺めだなぁ…



……ん!?

……あ、あれは!!




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太田和彦先生の“百名盃”!!!



ご存知ない方のために説明しますと、日本の居酒屋研究家の大家に太田和彦さんという方がいらっしゃいます。
僕はこの方の、博識で物静かながらも愛嬌のある飲み方が大好きで、先生の居酒屋に関して書かれた本や映像をいつも楽しみに見ています。

そんな太田さんの酒仕事の中に「日本百名居酒屋」というのがあって、これは日本中の100軒の名居酒屋を飲み歩く様子を記録した、旅チャンネルの番組。
DVD-BOXが2つ出ておりまして、僕はこれの「1」を去年、「2」を今年、妻にリクエストして誕生日にプレゼントしてもらったくらい好きなんです!

その番組の中で、各居酒屋に、太田さんがデザインした“百名盃”というオリジナルの盃をお礼としてプレゼントするというのが習慣になっているんですが、まさにその百名盃が目の前の棚に鎮座している!

……あれ?もしかしてこの景色?
うわ、なんで今まで気付かなかったんだ!DVDで何度も見た店じゃないか!

気付いた瞬間ちょっと鳥肌立ちましたよ。
映像で見ただけのお店、まさかここだとは思っていなかったこともあり、しばらくの間全然気付かなかったっす。
よく見ると女将さんも、あの女将さんだ!

そう、くさ笛は、そういった意味でもしっかりと名の通った、正真正銘の名店だったんですね。

それが証拠に、

「東京から旅行に来て、ここの雰囲気が良さそうだったんでふらりと入ってみたんです」
「それは運がいいですね。このあたりでは、ここが一番の店ですよ」

なんて常連さんとの会話もあり。
あ〜もう、嬉しいな〜!甲府に来て本当に良かった!


ではでは、あらためてつまみを決めていきましょう。

聞き慣れない“カチリサンショウ”なんてメニューについて、女将さんに「どういうものですか?」と聞くと「山椒とジャコを和えたやつで、そんなにおもしろくないわよ。それならサンショウ冷奴の方がおすすめ!」と、自らメニューに乗せておきながらかなり自由なスタイル。

悩んだ末、まずは




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みつばササミ(500円)



を。

ミツバの味が濃く、ちょっと甘辛い味がササミとの相性も抜群で、すごくほっとする味ですね。

ここでは炒め物でも天ぷらでも、女将さんが目の前で調理してくれます。

常連さんから「こっちもミツバ食べたいな〜」なんて声が出ると、お客さんの好みに合わせてでしょう「どうやって食べる?玉子でとじる?」と、基本的にメニューは参考程度で、食べたい物を女将さんが作ってくれるというのが定番のようです。
作ってる最中も「こんくらい?もうちょっと?」と、火の通し加減まで好みに応じてくれるようで、いや〜、常連さんがうらやましいことこの上ないですね。

ここらでハイボールは飲み干し、なんたって“銘酒コーナー”ですから、お酒を頂きたいところ。
七賢」「開運」「春鶯囀(しゅんのうてん)」「北杜」など、基本的に山梨のお酒を揃えられているそうですが、勝手がわからないので、「お酒を頂きたいんですが…」と伝えます。
するとこんどは店員のお姉さんが、好みや気分などを聞きつつ「初めてだったらこれがいいんじゃないかな」と、







を出してくれました。
山梨県南巨摩郡の「萬屋醸造店」さんのお酒。

飲みやすいんですがしっかりと旨味があり、大変美味です。
また、土地のお酒をその土地で飲むというのがたまらない!
飾らないアサヒのグラスと小皿もいいですよね。

お料理の方、次は




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とりもつ(600円)



を頂きました。

鳥もつ煮といえば、B級グルメ界を盛り上げる「B-1グランプリ」優勝によって近年急速に知名度を上げた甲府の名物。
こってりとしたタレに濃厚なモツの風味が絶品です!

「美味しいですね」とお伝えすると女将さん、「でしょう?とりもつはうちのが一番よ!」と明るくおっしゃいますが、横の常連さんから「女将さん、B-1グランプリで“甲府鳥もつ煮”が優勝した次の日からこれ出し始めたんですよ。前から出してますって顔して」と突っ込みが入ります。
あぁ、そのやりとり、全てが心地良い…。

お酒のおかわりは、次もおまかせで、「山梨銘醸」さんの、







南アルプス甲斐駒ヶ岳の伏流水と山梨県産の米で作られたお酒だそうで、「こっちの方が濃く感じるかも」とのことだったんですが、むしろさらに飲みやすく、スーッと爽やかに抜けていく印象でした。
これまたうまい!

さらに常連さんが教えてくれたんですが「女将さんは毎日山に、秋はきのこ、春は山菜を採りに行ってるんですよ。」とのこと。
加えて「逆に夏、冬はあんまり食べるものがなくて」なんて笑ってましたが、それにしても毎日山に食材を取りにいかれてるとはすごすぎますね!

夏の終わりは秋の入り口。
あわよくばきのこ料理が味わえないかな…?と伺うと「あるわよ!」とのことで、




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きのこおろし



を味わうことができました!

本日の天然きのこ、酔いのせいもあって名前を忘れてしまったのが大失態なんですが、椎茸っぽくて裏が真っ黒いようなのと、こちらのしめじにもにたやつ、2種類がありました。
椎茸っぽい方は油で炒めるのが、こっちは大根おろしでさっぱり食べるのがおすすめということで、今回は後者をチョイス。

野生を感じる力強い旨味と、さっぱりとしたおろしの少しの辛味が、「身体が元気になってる!」と実感させてくれます。
何より、お母さんが直に山から採ってきて、目の前で調理してくれるというありがたみもあり、思い出に深く刻み込まれる味となりました。


あ、ちなみに、値段の出ていないものもあるので心配な方もいらっしゃると思うお会計ですが、記事にあるもの全部と、妻もお茶を2杯くらい頼んで、2人で4,000円くらいだったかな?
とにかくとってもリーズナブルでしたので、その点もご安心下さい。


女将さんによると、くさ笛のあるオリンピック通りは、その名の通り東京オリンピックが開催された昭和39年にでき、お店もその時からの営業だそう。
お会計を終え、「今度また東京オリンピックがあるでしょ?私はその時ちょうど80歳で、それまでは営業しようと思ってるから、また来てね!」なんて言って頂きホロリとしていると、またしても常連さんから「女将さんは年齢がコロコロ変わるから何が本当かわかんないけどね」と突っ込みが入っておりました。

もちろん、またこんなやりとりを聞きながら美味しいお酒と料理を味わいに来たいので、東京オリンピックまでといわず、何年でも続けてほしいもんです。
絶対また来ますんで!




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最後にお願いした記念写真



女将さん、ほっぺたツルツルだった。




住所:山梨県甲府市中央1-20-23
電話:055-232-3948
アクセス:JR身延線金手駅
くさ笛 - 金手/居酒屋 [食べログ]




告知

ヤングアニマル嵐 No.10(2014年9月5日発売)

「僕らはみんな、生きている」というコーナーにて、パリッコがお酒や居酒屋に関するインタビューをして頂き、その内容を元にしたコラムが掲載されます。
是非チェックしてみて下さい!

ヤングアニマル嵐web | 白泉社



パリッコの個展「酒とたぬき展」と記念イベント「居酒屋パリッコ in 大阪」のお知らせ

★DJ、漫画家、そして酒好きとして活動中のパリッコが、大阪・中津のミニコミ/CDショップ「シカク」さんで個展をさせてもらうことになりました。
★10月13日(月・祝)には、飲み放題インストアパーティ「居酒屋パリッコ in 大阪」を開催予定!


個展「酒とたぬき展」
期間:2014年10月12日(日)〜10月25日(土)
会場:ミニコミ・CD シカク(大阪市北区中津)

※開催時間はシカクさんの営業時間に準じます
※入場無料


記念飲み放題イベント「居酒屋パリッコ in 大阪」
日時:2014年10月13日(月・祝)16時〜19時(予定)
会場:ミニコミ・CD シカク 2Fイベントスペース
会費:1,500円
出演:パリッコ、スズキナオ(チミドロ)、他予定

・ウーロンハイ、酎ハイ飲み放題(予定)

※詳細は随時パリッコのホームページでお知らせします
羅刹レコーズ/パリッコ



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posted by パリッコ at 17:34 | Comment(0) | 第101回〜第125回
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