大衆酒場激戦区立石にも、こんなにのんびり飲める店がある
今回の舞台は、この連載では初となる「立石」です。
立石といえば、関東の酒好きなら名前を聞いただけでソワソワしてしまう、いわば聖地。
安くてうまい大衆酒場の超名店が立ち並び、昼から飲める店も少なくない、酒飲みたちのディズニーランドなのです。
筆頭はやはり、もつ焼きの「宇ち多゛」でしょう。
メニューには「もつやき」としか表記されていないにも関わらず、「カシラ」「ハツ」「ガツ」「ナンコツ」「レバ」「シロ」「アブラ」「ツル」といった部位に、味付け、焼き方、お酢がいるかどうかなどを指定して頼む必要があるため、「ハツナマお酢!」「アブラ少ないとこミソよく焼きで!」などという呪文のような言葉が店内に飛び交っており、加えて希少な限定メニューもあったりするので、一見で入るにはそれは勇気のいる酒場です。
それゆえ、一部のファンの間では宇ち多゛へ行くことを“宇ち入り”なんて大げさに呼んだりもするのですが、思い切って入ってしまえば、新鮮なもつ焼きのあまりの高次元なうまさ、驚くべき安さに打ちのめされることは間違いありません。
それに、ちょっとコワモテの店員さんたちも「初めてなんですが」と素直に言えば、親切におすすめやお店のシステムを教えてくれますしね。
他にも、もつ焼きの「江戸っ子」に「ミツワ」、若鶏の半身揚げが名物の「鳥房」、おでんの「丸忠かまぼこ店(旧二毛作)」、立ち食いの「栄寿司」、「串揚げ100円ショップ」に、街のスーパーと定食屋が合体してしまったような「倉井ストアー」と、魅力に富み、ここだけにしかない名店が目白押し。
僕は行ったお店も、まだ行けてないお店もあるのですが、どれも関東屈指の名店であることは間違いなく、つまり立石は最高の街だってことです。
あ、こないだ別のサイト「メシ通」さんで書いた「秀」も、本当に素晴らしいお店ですよ!

有名な「呑んべ横丁」の看板
こち亀の扉絵なんかで知ってる方も多いのでは?︎
この呑んべ横丁へ入ってゆくと、

こんな
ディープすぎる景色が広がっており、散策してるだけでたまりません。
酒の視点から見ると、ここがメインストリートということになるでしょうか。

名店宇ち多゛の行列
は、オープンの14時前から途切れることはありません。
さて、今日ご紹介したいのは、そんな魅力溢れる街、立石において、僕が一番大好きなお店。
先ほど挙げたような有名店でも、何か特別な名物があるわけでもないんですが、飲んでいて落ち着くし、心が満たされる、僕の中では立石一の名店なのです。
理由はやっぱり“人”と“場所”。
大衆酒場の楽しみにおいて、味の良さやコストパフォーマンスはそういった魅力の後から付いてくる要素にすぎないという僕の思いを確信に変えてくれるような、本当に素晴らしいお店なんですね。
先ほどの仲見世商店街を宇ち多゛を超えて直進し、

ちょっと静かになったあたり
左手に赤提灯が見えるのがそれです。
店名は「鳥勝」。
特に看板があるとか、提灯に店名が書いてあるとかではないので、この

長〜いのれん
を目印に探してみてください。
のれんをくぐれば広がる

雑然とした店内
なんでこんなにも落ち着くんですかね? “雑然”。

カウンター

見上げるとメニュー
モロキュー130円、枝豆180円、もつ煮込み280円など、全体的にめちゃくちゃ安いです。
カレーライスや、焼きそば、そうめん、冷しざる中華など、ご飯ものも充実。

日替わりメニュー
このまま床の間に飾りたくなるような味わい深い文字ですね。︎
何年か前、ひとりで立石を散策していて、何気なくふらりと入ったのがこちらとの出会いでした。
例ののれんで中の様子が見えず、初めは「どんな店かな?」という心地良い緊張感があったのですが、この

¥100 見本
と書かれたガラスケース内の小皿を目にした時、一気に解きほぐされていったのを覚えています。
こんなの、かわいいとしか言い様がないでしょう!
さらに左を見ると

カップ麺
「あ、ここ最高だ」
というわけで、

煮込み(280円)にホッピーセット 白(400円)
う〜ん、なんだろう、このリラックス感は。
完全オープンな店内に巨大な扇風機が風を回し、ゆらゆらと揺れるのれんの向こうにアーケードから差し込む光が輝く。
ちらりと駅方向に目をやれば宇ち多゛の前は相変わらずの大行列。
そんな温度差も、こののんびりとした空気が生み出される要因のひとつかもしれません。

ラッキョ(100円)
ガラスケースの見本から。
これで何杯酒が飲めるか。

こちらがご主人
そして鳥勝最大の魅力は間違いなくこのご主人!
いつも穏やかに優しい笑顔で出迎えてくださり、どこか可愛げのある魅力的な方です。
それでいてこの、自分の目が行き届く規模の店をおひとりで切り盛りされている、一国一城の主。
めちゃくちゃかっこいいっすよね。

カウンター上を見上げると
穴場的なお店ではありますが、さすが立石だけに有名人のサインもずらり。
特にボクシングの内藤大助選手は超常連で、大きなタイトルを取ったあとは必ずここに来て、サインを置いていってくれるそうです。
ていうか実際僕もここで内藤選手見たことありますし。

たたきキューリ(130円)
キュウリを豪快にぶっ叩いて、たぶん市販のキムチの素をかけただけの料理。
これがベストなつまみになってしまうんだから、大衆酒場はやっぱり奥深い。

冷奴(300円)
なんと豆腐一丁分が使われています。
上にかかっているのはネギと醤油だよ。
そしてそして、ここへ来るとつい頼んでしまうのが、

煮込豚足(200円)
このボリュームでなんと200円!
何もかもが安い鳥勝の中でも特にお得なメニューと言えるんじゃないでしょうか。
よ〜く味のしみた豚足は、ホロホロ柔らかいというよりはムッチリと食べ応えがあり、これまた良いつまみになります。
この豚足とレモンサワー(320円)あたりを風に吹かれながらちびちびやってると、なんとなく沖縄の市場の隅の居酒屋かなんかで飲んでる気分になってくるんですよね。
鳥勝の店内だけは“島時間”にも近い独特の時間の流れがあるのかもしれません。
ところで、先日ご主人と少し長くお話しできるタイミングがあったので、色々と気になることを聞いてみました。
そしたらさらにこのお店のファンになってしまったので、ちょっとそんな話を。
鳥勝ができたのは今から14年前で、その時は1本50円からの、持ち帰り専門の焼鳥屋さんだったそうです。
立石といえば飲み屋の激戦区のイメージが強いですが、「なんでこの場所を選んだんですか?」と伺うと「空いてたから」とのこと。
けっこう行き当たりばったりな性格なのか「50円じゃ全然やっていけなかった」とおっしゃられていたのも笑えました。
その後、常連さんのリクエストのままにお酒を出すようになり、ご飯もののメニューも少しずつ増え、現在のような業態になっていったそう。
ガラスケースにカップ麺が置いてあった経緯もこれではっきりしましたね。
営業開始は、公称は13時だけど、ご主人が店にくる12時くらいにはなんとな〜く常連さんが集まりはじめ、深夜1時まで。
これ、界隈でも一番早くから、そして一番長く飲める店なんじゃないでしょうか?
ご主人はなんとお酒は嫌いで、甘いものが好物。
なので毎日車で30分ほどかけてここまで通われているそうです。
最近、お仕事で居酒屋の大将にお話を聞くような機会もチラホラと出てきた僕は、ここでついこんな質問をしてしまいました。
「お仕事大変だと思いますが、そんなにがんばれる秘訣ってなんでしょう? やっぱりお客さんに喜んでもらいたいという気持ちですか?」
ちょっと決め打ちの質問ですよね。
「はい」と答えれば美談になる。
実際、今までこういった質問をして「NO」と答えた方なんていませんでした。
しかし鳥勝のご主人、
「忍耐だね」
とのこと。
いや〜、シビれた!
そして浅はかな質問をしてしまった自分を恥じた。
「仕事をがんばる秘訣は、忍耐」こんな重みのある言葉があるでしょうか?
とはいえ、

この写真

この笑顔
を見れば、もちろんその言葉が本心であった上で、お客さんに対する優しい心が溢れている方だということは一目瞭然。
今後も通わせて頂きます!

書籍版「大衆酒場ベスト1000(3)」収録「よっ太の酒日記」- 立石ハシゴ編 - より
鳥勝 (とりかつ) - 京成立石/居酒屋 [食べログ]
住所:東京都葛飾区立石1-19-1
電話:090-2889-1132
アクセス:京成押上線立石駅
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