初訪問の地「前橋」で出会った名酒場と、まぼろしの酒
2ヶ月のご無沙汰となってしまいました。
というのも、実は来る12月8日、オークラ出版さんから新しい酒雑誌「酒場人」という本が創刊されるのですが、なんとその「監修」という、身に余りすぎる大役を任せてもらうことになり、ここ1〜2ヶ月、夜はそっちの作業にかかりっきりだったのです。
いろいろなすごい方々に取材させていただいたり、通常の仕事が終わったあとに鎌倉へ直行して、酒場を8軒ハシゴ取材したりだとか、スケジュール的には大変だったり無茶だったりしたけど、それ以上にとっても幸せすぎる経験をたくさんさせてもらいました。
完成した本は、商業誌とは信じられないくらいにやりたい放題やらせてもらった最高にディープな内容になってますので、みなさま、お見かけの際はぜひ手にとってみてください!
ファミマ、ローソンなどのコンビニ販売がメインで、一部取り扱いのない書店さんなどもあるそうなので、気になる方はお手数ですが探してみてくださいね。
Amazonにもあります
と、いきなり言い訳とおしらせから始まってしまいましたが、僕がこのような光栄なお仕事を頂けたのも、これまでこの「大衆酒場ベスト1000」を読んでくださり、応援してくださったみなさまのおかげであります。
今後もたまにお休みしちゃったりすることもあるかもしれませんが(100回くらいまでは意地で定期更新を続けてたんですが)、引き続き、よりディープに更新を続けていけたらと思ってますので、何卒よろしくお願いします。
はい、ここから本題。
ところで僕がそういう活動をしてるってことをすっかりお忘れの方も多いと思いますが、先日、初めて群馬県は前橋でDJをしてきました!
どこでだってDJのオファーを頂ければ嬉しいんですが、それが初めての土地ともなると、ワクワクも倍増するってもの。
なんたって、空いた時間に未知の街を探索、あわよくば酒場に飛び込めるかもしれないんですから!
前橋へは職場のある池袋から湘南新宿ラインで、うまくいけば乗り換えなしで約2時間。
「案外近いな、これは今後来る機会も増えることになるな……」なんてボーッと考えていたら、あっというまに着いてしまいました。
うお〜、馴染みのない土地! 駅を降り、空気を吸うだけで興奮する!
ですが、まずはパーティ会場へ向かいましょう。

へー、そうなんだ

道端にいきなり「ご自由にお使いください」スペース

あまりにも快適そう!

どうでもいいけど、枯葉がすごい
駅から徒歩10分弱で到着した会場「PARAHOTEL」は、最近惜しくも閉館してしまった300年の歴史を持つ「白井屋」というホテルを改装した空間。
関係者のみなさんの自由な発想と情熱がほとばしり、「こんな楽しい場所はめったにない!」というような素晴らしい場所でした。
実は残念ながらこの「PARAHOTEL」の営業も、もう終了してしまったそうなのですが、一度でも出演できて良かった!

DJブース

広いフロアには、部屋で使われていたベッドがそのまま並ぶ

卓球台もあったり

ホテルのロビー風カウンターには、ドネーション(寄付制)のお酒や
この漬物がめっっっちゃくちゃうまかった!
「POWER」は今回の主催者さんのご友人がやっているお店らしく、いずれ必ず行かなければ。

絶品のフードも充実
さて、自分のリハーサルを終え、パーティの開始までは約45分間のフリータイム。
ダッシュで周辺を散策し、あわよくば目に付いたお店で一杯やれなくもない時間。
というわけで、スタッフさんに「オープンまでに戻ります!」と告げ、いったん会場を後にします。
会場の周辺は、「前橋駅」よりも上毛電鉄上毛線の「中央前橋駅」に近く、地元の方が“街”と呼ぶ繁華街はこの一帯だそう。
街、たまらない響きだ……。

あれが、街!

お、前橋の街並み、

なんか小粋!
年末が近いからということもあるんでしょうか? ところどころ派手すぎないイルミネーションで飾られ、ものすご〜くよく言えばパリの街を散策しているような、心はずむ雰囲気があります。
まぁ僕はパリの街を散策したことはないんですが。

あ! 川の上に、

またこんな素敵なフリースペース!
a.k.a. 路上飲みスポット。
しかも川床ですよ!

ほら! ほぼパリ!
いや〜それにしても、知らない土地ってどうしてこう興奮するんでしょうかね。
歩いているだけでアドレナリンが噴出しまくりです。

変わった形のひさし(?)がかわいい!

そうか、軽井沢も遠くないんだよな

「たぬき」!
なんとストレートに「たぬき」という居酒屋を発見!
「酒たぬき」というキャラクターを描き初めて以来気になってしょうがない動物なだけに、ものすごく魅かれるものがあります。
候補候補!

確実に後悔はしなさそう

「あ、花火!」
と思ったら、チカチカしてる、こういうネオンでした。
前に西川口かなんかでもこんなの見た気がする。

アーケード街に出た

たまらなさ限界突破の店構え

興味深すぎるイベントが開催されていたり

「なぜか」じゃないよ。月の満ち欠けだよ。

このおでん屋さんが良い店ってことは、入らなくてもわかりました
なぜって、

「花泥棒さんへ 愛情をもって育てている花を持っていかないで下さい。」
あなたは、愛情をもって育てた花を盗んでいった憎むべき相手を「花泥棒さん」と呼べますか?
料理にもたっぷり愛情がこもっているに決まってます。

やってたらなぁ〜

大衆中華系も

色々と充実してそうでした

ここにぎわってたな〜
「喜」という時が、七が3つの旧字体というのも共通してますが。

残念ながら休業されていた、味のありすぎるお店

ここもすごいにぎわってた!

「狸小路」!
「キーセン風パブ」ってなんだろう……。

看板を道の中央に出しすぎ

「うどんです しんかめです そばです しんかめです すきです たべてます」
……ふぅ、興奮しすぎてずいぶんと写真を羅列してしまいました。
まずここまでの散策の結果をご報告しますと、はい、まだ一杯も飲めてません。
あえて店名は伏せますが、2軒ほどのお店に飛び込んでみたところ、片方は残念ながら満席。
そしてもう片方は、入り口の扉をカラリと開けると、カウンターのみの店内で数人の常連さんが飲まれており、空席がポツポツ。
「1人なんですが」と告げると、店内全体から若干の「え? 何この子?」的空気を感じ、すぐに「ごめんなさいね〜、今日はちょっと…」と断られてしまいました。
後からこのあたりの酒場事情に詳しいという方に聞いたところ、やはり「一見さんお断り」のお店だったようで。
大衆酒場の甘くない一面を垣間見れたというマゾヒスティックな喜びを感じつつ、あらためて初心に帰れたような気がして、辛くもあり、また嬉しくもある思い出となりました。
とはいえ、そろそろ居酒屋に寄って一杯という時間の余裕はなくなってきた。
こういう時はスーパーに飛び込み、街角の素敵なベンチをお借りして、

缶チューハイでも
やるに限りますな。
知らない街に来て、とりあえず路上でチューハイの1缶も飲んだりすると、強制的に心身がそこの空気に馴染んでいくような感覚になるんですよね。
それまでは余所者感覚でソワソワしていたのが「俺がここにいたって別にいいだろ!」と思えてくるというか。
そもそも、別にいいんですけどね。
僕はこの行為を密かに「街に対する精神的マウント」と呼んでいます。
って、いつにも増して全然酒場にたどり着かなくてすみません……。
こういうパターンって何もかもが新鮮で。
とにかく僕はこのあと会場に戻り、無事DJプレイも終え、会場で知り合った地元の酒場通「岡さん」という男性から、前橋の酒事情などを聞かせてもらっていました。
そこで「地元の方が普段使いしてるような大衆酒場に興味があるんですよね〜」なんてお話をしたら「良かったらちょっと行きませんか?」と嬉しいご提案。
それは願ってもないこと! パーティを少しだけ抜けさせてもらい、岡さんエスコートのもと、いよいよ前橋のディープゾーンに突入することに。

くねくねと伸びるアーケード
さっきの散策で、あまりに寂しい雰囲気なので、唯一来なかった方面だ!

中華そば屋
もう営業はしていないのかな? ロマン感じる佇まいです。
と、こんな感じの、この先にはさすがに何も無いんじゃないかって道を進むこと数分、突如現れたのが、

「呑龍飲食店街」!
「どんりゅういんしょくてんがい」と読むのかな? こんなかっこいい名前の横丁、なかなかないです。
ヤバいぞこれは……。

「呑龍」「呑竜」どちらでもいいみたい

どこまでもついて行きたくなる、岡さんの頼もしい足取り

良い横丁には良い猫がいる

そして最果ての地へ到着
さすが事情通。
こんな場所、とてもひとりではたどり着けないですよ。
中でも岡さんのおすすめが、

「由多加」さん
今夜はこちらへおじゃますることに。
ドキドキしながら入店すると、店内はカウンター数席に、テーブルがひとつある座敷のみの、こじんまりとした作り。
ほわっと暖かい空気が、こわばった気持ちをときほぐしてくれます。
まずは瓶ビールをお願いし、頂いていると、「はい」と、

けんちん汁(?)
が。
どうやらおつまみは、お客さんの様子を見ながら自動的に出てくるシステムのよう。
それぞれの具材から旨味がたっぷりと出た優しい味わいの汁に、柚子が豊かに香り、ものすご〜く、うまい!
先ほどまで孤独に街を徘徊し、2軒の居酒屋にふられていたこともあったので、このけんちん汁を一口飲んだ瞬間、心の中で「むくわれた〜」とつぶやいてしまいましたよ。

厚揚げ
これまた優しい〜。

落花生
殻付きの落花生を剥いて食べるなんて久しぶりだな。
ちなみに今いるカウンター目の前の景色、

こんな感じ
です。
いつまででも飽きることなく見ていられる食器棚ですよね。

換気扇のスイッチもかっこよすぎ!
このように店内には興味深いアイテムが多く、「これは◯◯なのよ」なんて説明してくださる女将さんとの話も弾みます。
なかでも珍しかったのが、

これ!
サントリーのウイスキー「レッド」ですが、とっくりを思わせるかわいい形に「赤ちょうちん」と書かれたボトル。
中身入りです。
聞くとずっと前にお客さんがお土産として持ってきてくれたものだそうなんですが、今少し調べてみたところ、1980年代中頃にのみ売られていた商品らしく、間違いなくその当時からここにずっとあったデッドストックでしょう。

今は無き「2級」の文字が泣ける
で、棚にはこの小さなボトルが3本。
うち1本は空いていて、中身が入っているのは2本だけだったんですが、女将さん、サラッと「よかったら飲んでみる?」なんて言ってくださいます。
いやいやいや! こんな歴史が刻まれたお酒、ふらっとやってきた一見の僕などが頂くわけにはいきません!
丁重にお断りするも、少し経つと「さっきのあれ、飲んでみたら? いいのよ、飲みたい人が飲めば」と、またまたすすめていただきました。
そんなやりとりが何度かあって後、岡さんも「パリッコさん、これはいい機会かもしれないですよ」と言ってくださり、ついに「では、せっかくなので頂きましょうか」という流れに。
お、おそれおおい……。
が、酒飲みとしてめったにできるものではないこの体験、女将さん、岡さんのお気持ちに感謝しつつ、ありがたく頂くことにします。

グラスがやって来てしまった……

岡さんによる開栓の儀
慎重にそそぐと、

神々しい!
気になるのはその味ですが、サントリーのレッドというと大衆酒であり、基本そんなに深みのあるものではなく、水割りやソーダ割りなどで飲むのが一般的だと思います。
ところが、この「赤ちょうちん」は、ストレートでしっかりうまい!
まったりとした深みがあり、クセやトゲトゲしい感じは一切ありません。
ウイスキーって、ワインのようにボトルではなくて樽で熟成させるお酒なので、この一瓶がどのような味の変化を経てきたのかはわかりませんが、約30年もの間、こんなに良い酒場の空気の中にあり、その歴史をずっと見守ってきたお酒。
言葉では説明できない様々な要素が複雑に絡み合った、ものすご〜く深い味わいになっていることは間違いありません。
いや、またお酒の神様の存在を強く意識させられるような、自分の酒史に深く刻まれるような、重厚な一杯を頂いてしまいました。
貴重なお酒を本当にありがとうございました!

「ちょっと私も飲んでみようかしら」
と女将さん。
感想は「へ〜、こういう味なんだ」という感じでした。
引き続きおつまみもやってきて、

野性味あふれるプチトマト

鮭の燻製塩焼き

漬物の盛り合わせ
どれもこれも本当〜に美味しく、一口一口噛み締めて味わいたいようなありがたさ。
これらをつまみにゆっくりと残りのウイスキーを頂き、名残惜しいけど、そろそろ会場に戻りますか。
女将さん、ごちそうさまでした!
お会計をお願いすると「じゃあ1,000円ずつね」と女将さん。
え? えっと……どう考えても安すぎるっていうか、貴重すぎるお酒も頂いてしまったので、申し訳ないんですけど。
そうお伝えしても「いいのよ、そのくらいよ」という女将さんに、なんとかひとり2,000円ずつだけお渡しして、お店をあとにしました
とさ。
何もかもが異次元の素晴らしさだったな、由多加。
ここには絶対にまたやって来たいし、他にも入ってみたい店が山ほどあったし、前橋、底知れない街。
東京からだってそんなに遠くないこともわかったので、またちょくちょく通わせてもらいたいと思います!
しかしこうやって、好きな街が増えていくのって本当嬉しいことですよね。
ありがたやありがたや。

ちなみに岡さんは、超オシャレ!

なんと「そんなに気に入ったなら持ってって」と、お土産に頂いてしまった空ボトル
由多加
住所:群馬県前橋市千代田町3-9-13
電話:027-233-4789
アクセス:上毛電鉄上毛線中央前橋駅
告知
野毛や大船の紹介も面白かったですけど、大阪の瓶ビールの値段とか
小さなコラムがマニアの心をくすぐって、素敵でした。
誌面も読みやすかったし、満足です。何よりも、敷居の高そうな
店がないのがまた読んでて安心感があってよかったですわ!
第二号も、大変でしょうか、期待しております。
第2号、4/18に無事発売することができそうです!
よろしければチェックしてみてください!